第2号

2006年
6月
東京風景物語

編集: busonist7
プロローグ
 一名・東京散策記と言われる永井荷風の「日和下駄」に触発され、ひたすら街を歩き、埋もれた街かどの中に物語を拾い出し、東京風景のオリジナリティを追求してみようと思います。

風景と芸術・人それぞれの「無用な感慨」
 日和下駄を履き、蝙蝠傘をもって東京を歩き回った永井荷風は、ひたすら自分の好む風景を発見して「無用な感慨」に浸ることが、何よりも嬉しいと語っています。
 故郷の風景や、歴史上の人物・事件に関わる場所の風景に対して我々は特別な感慨を持ちます。
 場所の持つ様々な固有性が、我々の想像力をかき立て、その風景の中に無数の物語を創り上げていきます。その物語は、絵に表現され、小説や映画になり、次第に多くの人々の共感を得て、名所と呼ばれる風景を誕生させます。
 一方で、他人の共感を求めず、永遠に個人的な風景もあり、それこそ我々が人生を生きた証としてしみじみ思い起こすものでもあります。人生に起こる事件の背景として無意識に記憶された風景は、時を経ていつしか事の経緯は忘れ去っても、その時の生き生きした感動や気分を、よみがえらせることができるのです。それは、多くの場合、人それぞれの「無用な感慨」かも知れませんが、街の風景はそのことによって人々に愛され親しまれ、芸術の対象となって感動を生み出していくのだと思います。こうした小さな風景物語を東京の街の中に探して見ようと思います。
◆風景の科学・東京風景の構造
 江戸から明治・大正・昭和・平成と、東京は大きく変わり、今なおその風景は変化し続けていますが、東京の大地の構成、つまり自然地形は、ほとんど変わっていません。小河川や運河が埋め立てられ道路となり、崖が削られビルが建っても、大地の構成は、それほど大きくは変わりようがないのです。
 東京湾に注ぐ、古多摩川が造った三角州として形成された武蔵野台地と、荒川・利根川が土砂を運んで造った沖積低地で東京は構成されています。
 東京都心の複雑多様な地形は、武蔵野台地を流れる地下水が小金井、吉祥寺あたりで表出して小さな河川が生まれ、その流れが武蔵野台地の東端部を細かく削たくさんの谷を造った結果です。
 この台地と谷の織りなす景観が、東京の名所を創るおおもとになっています。現代ではこの地形の高低差は、ビルの高さの中に埋もれてしまって、風景として味わうことはほとんど出来なくなっています。それでもかつての名所図絵などを参考にすれば、おおよその風景は想像することができるので、この細やかな土地の起伏による味わいある街の風景を発見してみましょう。
今回の対象地域 前回の対象地域 
本郷・上野台地 小石川台地
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